原作からの前評判は聞いて覚悟していましたが、本当に号泣モノだった『コウノドリ』5話。演出もすばらしくてよけい涙を誘いましたよ。あー、もう2回観て、2回とも号泣!
今回は、自然看取りでもよかったのにと言われても帝王切開で超低出生体重児として生まれた子の親と、切迫早産で入院し残念ながらお腹の中で子を亡くした親の話。
いつもながら、対比させるような妊婦さんを必ず登場させるので、何がいいとか悪いとかじゃない、あらゆる選択肢や状況があることを丁寧に描いてくれるこのドラマ、ますます大好きになりました。
以下、ネタバレ注意!!
下屋の葛藤と四宮の優しさ
「医者は治療することはできても育てることはできない」、以前からカンファレンスの場でも今橋センター長が何度も強調するように言っていた言葉。医者は現場で全力を尽くすけれど、そこから先はご家族の生活が続いていく。これはこのドラマの深いテーマでもありますよね。
下屋が以前、緊急搬送で手術を担当した妊婦さんで、赤ちゃんの命の危険があったことから帝王切開を行った。そのことにより赤ちゃんは超低出生体重児として新生児科にいる。白川が日々懸命な治療を行うも状態は厳しく、手術を要するも両親はそもそも帝王切開になった経緯に納得せず、手術をしてまで助けてほしいとは思わないという。つまり、そのまま生きていても障がい児として生きる可能性があり、だったら帝王切開せずそのままお腹の中で自然に看取るほうがよいという考えもあるから。
下屋はこのことがずっと気になっていて、カンファレンスでも説明責任について自分を責める。そこでまた大橋センター長・大森南朋さーん、いつもながら言葉の選び方が優しいなぁ。「我が子がなんらかの障がいを持って生きていくかもしれない事実に戸惑っているのだと思います」、これは下屋をはじめとする現場で緊急判断を強いられる医者にしてみたら、少し救われる言葉かもしれません。
容体は悪化しつつあるなかで、納得しない親を待っている場合じゃない、児童相談所に掛け合って親権を止めてでも早く手術をした方がいいと熱くなる白川に、四宮がさらりと「そんなことをしたら親はなおさら子供を受け入れられなくなるだろうな」
もーーー、このセリフの重みはシーズン1を参照!!
観ていない人は観るべし!
今回やたら下屋に四宮が絡んでくるのは、シーズン1のとき、担当した妊婦さんの子供が障がいを持って誕生し親が見舞いにもこない、つまり見捨てられたのよぉぉ~!
シノリン、それだけじゃない。ずっと下屋を気遣って、たとえ話をして元気づける。いい話だった。
「目の前に車にひかれて死にそうな人間がいたら、だれだって助けるだろう。その命を救ったあとに、障害が残るかなんて誰も考えちゃいない。緊急オペというのはどういうものだ」
命を助けることが最優先であり、緊急処置はするけれども医者がすべてを完璧に治せるわけではない。そして、その後のことは誰にもわからない。緊急オペについては、一刻を争う場合には同意書を早く書いてもらう必要があったかもしれない。でも、親が状況的に「書かされた」と思ってしまう気持ちもわかる。
私も親の手術のときの同意書で少し似たような感覚になったことがあります。緊急じゃないにせよ、手術の同意書は専門的なことがわかりにくいからこそ、どうしても書かされた感が否めない。緊急じゃない、つまりそんなに命にかかわらないときほど説明が足りなく感じる。緊急時は詳しい説明は困難かもしれないけれども、できるだけ納得できるような説明を受けるべきだし、わからないまま、納得しないままというのは避けるべきだと思いました。
今は医療事故の観点からも、術前の説明はずいぶんと丁寧になってきたとは思いますが、医者と患者の意思疎通がとれていないことで、ドラマのようにのちのち問題になったりするし、患者側が悔恨を抱えることにもなりかねない。なので、わからないことはそのままにせず、納得いくまで聞いたほうがいいなと思いました。
光と影、あかりとひかる、明るい妻と寡黙な夫
なんという素晴らしい演出なんだろうと思ったのが、随所にちりばめられた「光と影」のコントラスト。そして、小松さんの「西山さんのお産は特別に明るくしないとね」というセリフが、後半押し寄せる「影」を照らすためのフラグだったなんて、涙無くして観られなかったわ。
- 切迫早産の可能性で入院している先輩妊婦・七村さんの明るさ
- 西山さん夫婦の違い(妻が明るく、夫が殺し屋に間違えられるほど寡黙)
- 暗い個室に窓から差し込む光
- シーツのシワの光と影
- 言葉少ない寡黙な夫の言葉以上の優しさと愛
- 夫は自分が寡黙だからこそ明るい妻が好きで子供の名前も「あかり」にした
- 先輩妊婦・七村さんの名前が「ひかる」
- 武骨で強面の夫が沐浴で笑顔みせるところ
- 明るい妻が渾身の笑顔を作って七村さんを励ますところ
- 「祈りの部屋(霊安室)」の天井から降り注ぐ光
ものごとは表裏一体、なにがあるかわからない。光の中に影を、影の中に光をみる、そんなことを繰り返し感じました。西山さんご夫婦のキャスティング、そういう意味では絶妙でした。
四宮(星野源)のおもしろ行動
あと、四宮のクスッと笑ってしまうおもしろ行動は、全体的に重く暗くなりがちな今回の話の中に差し込む光明を表しているのではないでしょうか。この行動がないと、ただただ全体が辛い話でしかたないんだもの。
- 四宮がプリンを食べるかどうかで悩むシーン
- 「おまえ、お腹強いだろ?」って賞味期限切れのプリンをあげるシーン
- 「ダメです、これは俺のジャムパンです!」と菓子パンを鷲掴みするシーン
星野源のおちゃめさとクールさの入り混じった演技サイコー! この演技・演出があったから、暗くなりがちな話がどん底にならずにすんだし、下屋を励ますシーンも含めて、ストーリー全体のバランスをとっていた気がします。
「だってさ、このお産暗くしたくないじゃない!」
小松さんのそこはかとない優しさが全面に出ていた回でしたね。助産師としてさまざまな出産に立ち会った経験があり、このようなケースも何度もあったはず。その貫録がすごくよく出ていましたよね。吉田羊さん名演~!
すでに赤ちゃんが亡くなっていてもお母さんの出産には変わりはない。だから小松さんは同じように寄り添うのだ。ほんと、このシーンは感動的だった。夫婦の回想シーンと既に亡くなっているをわかっていて悲しいはずなのに、赤ちゃんを産んだときの幸せに満ちたお母さんの表情。生きた状態で産むことはできなかったけれど、一緒に過ごした時間は確実に幸せなことだったんだよ。ここでも号泣したわ~~~!
助産師さんの存在ってめっちゃ重要だ。いろんな思いを抱えている産前産後の妊婦さんに寄り添うことができる。小松さんがいなかったら、悲しみと喜びが混じったような状態を乗り切ることができないよ・・・。お乳を飲んでもらうことができないのに、体はお母さんなんだもの。そこに、日本では法的に戸籍に残せないことを伝えつつ、お別れまでにしてあげたいことをしてあげていいんだよと促して寄り添う。本当に助産師さんのお仕事はありがたいことだわ。
サクラのやりきれない気持ち
下屋よりもずっと先輩で経験を積んできたサクラでさえ、今回のような死産は予測がつかず、一生懸命論文を調べたりするんだけど、このような原因不明のまま。それを四宮が静かに励まし、サクラも気持ちを落ち着かせていく。サクラはどちらかどいうと下屋寄りの感情に流される派だと思うけど、以前よりかはいつまでも気にしなくなっているように見受けられる。それは四宮という自分とは真逆の、感情よりも命を取ることに重きを置いている姿勢に救われたから。
医者という仕事は本当に過酷だと思う。一人の患者さんだけに構っていられないし、一人は悲しい死産だったとしても、次の患者さんが待っているし、絶え間なく毎日診察もしなければいけない。悲しんでばかりいられないし、ましてや原因不明の症例とも向き合ったり毎日が引き裂かれる思いなのだろう。四宮もいろいろあってこそ割り切れるようになったわけで、サクラにとってはかけがえのないよりどころにすらなっているはず。ベランダでの会話がそれをよく表していました。
ここまで回が進んできて思ったのは、サクラよりも周りのキャストの成長のほうにストーリーが重きを置いている気がします。下屋成長物語になっていて、サクラはそれをフォローするような立ち位置。
でも、サクラも1話でいきなり心境の変化があったっぽいので、これからドドーンとサクラの変化があるかもしれませんが、来週の予告をみる限りではまた下屋エピソードらしいのでどうなることやら。